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ルネサンス工房を経営して名作を生み出せ! ボードゲーム「パトロネージュ」覚書

時祷書風のパッケージ

ルネサンス美術史を題材にしたボードゲームがあるということは、1年以上前にツイッターで見かけて知っていたんだけど(現世の情報の9割をツイッターから得る女)、このたびついに実物をプレイする機会を得た。傑作との呼び声高い「パトロネージュ」である!

ちょうど友人にボドゲ狂いがいたので、これ幸いと焚きつけてみたところ、ほかにも美術史に造詣の深い友人たちが興味を持ってくれて、総勢4人でボドゲカフェへ。

結論から言うとめちゃくちゃ楽しかったし、よくできたゲームなので、いろんな人にぜひ挑戦してほしい! ここではプレイ中に思ったこと考えたことをいくつかメモしておくね。

プレイ中のテーブルの様子

プレイヤーの立ち位置

説明書によると、各プレイヤーは「工房の長(マエストロ)」になることになってるけど、実際プレイしたところ、これはどちらかというと「工房の経営者」と言ったほうが正確なように思う。

プレイヤーはゲーム中で、手持ちの資金と相談しながら工房を建て、芸術家を雇い、作品を制作させる。プレイヤー自身が作品の制作者となるのではなく、資金を提供してくれるパトロンと実際に制作をおこなう芸術家とを繋ぐ、いわば仲介者のような存在になるわけだ。

このような仲介者をゲームの主役に据えると、良い意味でプレイヤーと美術作品とのあいだに距離ができて、美術もまた市場のなかでやりとりされる商品なのだということが浮き彫りとなるような気がする。

経済活動としての美術制作

美術とかアートとかと言うと、市場価値に置き換えられないとか、値段がつけられるにしても一般的な経済とは別のルールで動いているとか、とかく特別な市場原理を持つものだと捉えられがちだ。それはたしかに近現代の美術においては言えることかもしれないけど、15〜16世紀だと話がちがってくる。

「パトロネージュ」は基本的にはカードゲームなんだけど、ゲーム内で金銭として機能する金貨やそれをプールするための木製の鉢はとりわけ製作に力が入っていて、まるで本物のような手触りが楽しめる。金貨のデザインも、実際にルネサンス期にフィレンツェを中心に使用されたフィオリーノ金貨を模していて、ちゃんと百合紋と洗礼者聖ヨハネの絵柄が彫り込んであるのだ。

存在感のあるフィオリーノ金貨

これは単純にそうしたリアルなアイテムをやりとりするのが面白いというだけでなく、美術制作界隈においても、他の買い物と同じようにお金がまわるんだよな〜としみじみ実感させる装置として機能しているように感じた。

美術のジャンルと「発想力」

また、作品がただ漠然と「美術作品」として提示されるのではなくて、ちゃんと絵画・彫刻・建築でジャンル分けされているのもよい。作品によっては絵画と彫刻のミックス(ex. カッソーネ)とか、彫刻と建築のミックス(ex. 《天国の門》)とかもあって、実際それらの作品はマルチな技術が求められるものなので、現実に即している。

これは同時に、いくら名声の高い芸術家を揃えていても、作ってほしい作品と制作ジャンルが合わないと何も成果がない…という事態をもたらすので盛り上がる。高い金払って自分の工房に建築家ブラマンテや画家ラファエッロをお迎えしても、彫刻作品である《ダヴィデ像》は作ってくれないのよ。

制作能力はカード左上のアイコンで示される。
ルカ・デッラ・ロッビアは彫刻だけ、ブラマンテは建築だけ、フラ・アンジェリコは絵画だけしか制作できない。
「アンジェリコはいい画家だよ~」と友人。知っとるわ。

そうなると、絵画・彫刻・建築なんでもござれの「万能人」の卓越が相対的に浮き彫りとなる。ほんとレオナルドはなんでも作れてすごいよね。

あと、「発想力」がプラスされている芸術家は作れる作品の候補が増えるというのも面白い。それってインヴェンツィオーネじゃん! インヴェンツィオーネはルネサンス期から使われた美術批評用語で、要は作品の構想とそれを生み出す力のことだ。

工房のスペックと芸術家の能力

さらに、作品を生み出す環境も制作の可否に関わってくるのも、とてもよいシステムだ。よい工房を建てておくと後に制作できる作品の幅が広がるわけだが、これは一見当たり前のようでいて見逃しがちなポイントをよく突いているな〜と思った。

歴史に残るようなよい作品については、やはりそれを生み出した制作者が偉大であるような気持ちがしてしまうものだけど、実際のところ環境によるところもおおいにあるだろうしさ…その工房にいっぱい資料がストックされてるとか最新の機材が揃えてあるとか…とかとか…。

それから、より多くの名声をもたらす「名作」をあらわすカードには、金縁の特別な装飾が施されているんだけど、このカード群は最初のラウンドでは登場しないことになっている。

ラウンドを繰り返すうちに、この名作カードが少しずつゲーム内に導入されていき、だんだん名作を制作できる頻度が上がるシステムになっているのだ。そりゃ最初から名作は作れないもんね。

「名作」の数々!

ちょっと文句をつけるなら…

以上のように、「パトロネージュ」は非常に完成度の高いボードゲームなんだけど、少しだけ言いたいことがないこともない。

まず、タイトルの割にパトロンの存在感が案外薄い。たぶん注文のプロセスがないからだと思う。なぜその作品を欲しがっているのか、その作品を手に入れてどうするのか、という話がないので、ともすると芸術家たちが機械的に作品を生み出しているような感じに陥ってしまう。

これはおそらくゲーム製作者さんも気づいている点で、ゲームには説明書のほかにも「パトロネージュ講座」という小冊子が同封されている。そこではポントルモとブロンズィーノの二人が時代背景やパトロネージュの何たるかを教えてくれる対話篇が展開され、末尾にはゲームに登場する作品の詳細も紹介されているのだ。

少年ブロンズィーノかわいい

それから、登場する芸術家や作品がフィレンツェとローマに偏っている印象。北イタリアで活動した人、パッラーディオくらい? まあパラッツォ・デル・テは出てきたけども…ヴェネツィアください…ティツィアーノが木陰で泣いてるから…。

まあでも、もちろんプレイして楽しいことが優先で、ルネサンス期の美術制作プロセスを再現することは目的でもなんでもないので、ティツィアーノが泣こうがわめこうがゲームとしては全然問題ないです。

というわけで、ルネサンス美術史好きは「パトロネージュ」やろうな!! 説明書は販売元のサイトでダウンロードできるよ。

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